リュウキュウハグロトンボ
沖縄本島北部の深い森、ヤンバルの渓流沿いを歩いていると、ふと目の前を黒く輝く翅を持つトンボが横切ることがあります。
その姿はまるで、森の精霊が舞い降りたかのよう。
これが、リュウキュウハグロトンボ(Matrona japonica)です。
日本の中でも限られた地域にしか生息しないこのトンボは、琉球列島の自然の豊かさと繊細さを象徴する存在です。
美しき姿とその特徴
リュウキュウハグロトンボは、カワトンボ科に属する中型のトンボで、体長はオスで約60~67mm、メスで58~65mm。
オスの体は金属光沢のある青緑色から緑色に輝き、光の角度によっては青くも見える幻想的な色彩を持ちます。
翅は前後ともに黒く、特にオスの翅は基部が青白く輝き、飛翔時にはその部分がキラキラと光を反射して、まるで宝石のような美しさを放ちます。
一方、メスの翅は黒褐色で、前翅と後翅の先端近くに白い偽縁紋(ぎえんもん)と呼ばれる模様があり、静止時には茶色っぽく見えることもあります。
この模様は、オスがメスを識別するための重要な目印でもあります。
生息地と分布
リュウキュウハグロトンボは、奄美大島、徳之島、沖縄本島などの中琉球に分布する日本固有種です。
特に沖縄本島では、北部の山間部、いわゆる「ヤンバル」と呼ばれる地域の清流沿いでよく見られます。
渓流や川岸に植物が多く繁茂する場所を好み、清らかな水と豊かな植生が生息に欠かせません。
生態と行動
成虫は沖縄では2月から12月下旬までと、非常に長い期間にわたって観察されます。
未成熟の個体は水辺から少し離れた森林内の草むらなどに多く見られ、成熟すると川沿いに縄張りを持つようになります。
オスは1.2~3.5メートルほどの範囲に縄張りを作り、川岸の草や石の上に静止して、他のオスが侵入すると激しく追い払います。
求愛行動も非常にユニークで、オスは翅を小刻みに動かしながらホバリングし、腹部の黄色い部分をメスに見せつけてアピールします。
時には水面に浮かんで流されるような行動も見せ、これはメスへのアピールの一環と考えられています。
交尾が成立すると、メスは単独で水中に潜り、枯れ木や水草の組織内に産卵します。
なんと、45分間も水中に潜って産卵を続けた記録もあるほど。
オスはその間、メスの近くで警護を行い、他のオスの接近を防ぎます。
種としての重要性と保全
リュウキュウハグロトンボは、かつては台湾や中国南部に分布する「タイワンハグロトンボ」の亜種とされていましたが、現在では独立した種として認識されています。
分布域が限られており、環境の変化に敏感なことから、絶滅危惧種(EN)としても指定されています。
その美しさと希少性から、観察や撮影の対象として人気がありますが、同時にその生息環境を守ることが求められています。
清流の水質保全や森林の保護は、リュウキュウハグロトンボだけでなく、そこに暮らす多くの生き物たちの未来を守ることにもつながります。
まとめ
リュウキュウハグロトンボは、ただの昆虫ではありません。
琉球の自然が育んだ、繊細で美しい命の象徴です。
その姿を目にしたとき、私たちは自然の尊さと、そこに生きる命の輝きを改めて感じることができるでしょう。
もし沖縄や奄美を訪れる機会があれば、ぜひ静かな渓流沿いで、この光の精霊に出会ってみてください。
雄(オス)
・沖縄本島型・・・翅の表面の青色に輝く部分が狭い
・奄美大島型・・・翅の表面の青色に輝く部分が広い
雌(メス)
・沖縄本島型・・・翅の偽縁紋が小さい
・奄美大島型・・・翅の偽縁紋が沖縄本島産より長い
リュウキュウハグロトンボの動画(メス)
和名・学名 | リュウキュウハグロトンボ Matrona basilaris |
---|---|
科 | カワトンボ科 |
属 | タイワンハグロトンボ属 |
ありがとありがと
どういたしまして(^^ゞ