沖縄本島北部、やんばると呼ばれる自然豊かな海岸線にひっそりと佇むのが、旧国道58号線の座津武トンネル跡。
かつて海から切り立つ岩場を切り通して築かれたこのトンネルは、1936年(昭和11年)に竣工し、翌1937年に開通しました。
軽便鉄道ではなく自動車や荷馬車が通行する道路用で地形の難所を克服するために生まれました。
旧座津武トンネル跡 やんばるの歴史を静かに語る遺構
沖縄本島北部、国頭村宇嘉の海岸沿いにひっそりと佇む「旧座津武トンネル跡」は、かつて国道58号線の一部として重要な役割を果たしていた歴史的な構造物です。
現在は通行止めとなり、静かな廃道としてその姿を残していますが、そこには沖縄の交通史と地域の暮らしを支えた記憶が刻まれています。
このトンネルの歴史は昭和初期にさかのぼります。
初代座津武トンネルは、昭和12年(1937年)に開通しました。
当時、沖縄本島北部の交通網は未整備で、山間部や海岸線を通る道は険しく、移動には多くの困難が伴っていました。
座津武トンネルの開通は、辺土名と奥を結ぶ県道の整備の一環として行われ、地域住民の生活や物流に大きな変化をもたらしました。
その後、昭和47年(1972年)には2代目の座津武トンネルが改修され、より広く安全な構造へと生まれ変わりました。
2車線対応のこのトンネルは、交通量の増加や車両の大型化に対応するためのものでした。
しかし、海岸沿いという立地のため、落石や高波、塩害といった自然の脅威に常にさらされており、通行止めが頻発するようになっていきます。
そして2013年、より安全で効率的な交通を確保するため、内陸側に新たな「宇嘉トンネル」が開通。
これにより座津武トンネルはその役目を終え、廃道となりました。
現在では、旧道の一部とともにトンネル跡が残されており、訪れる人々にその歴史を静かに語りかけています。
旧座津武トンネル跡は、今でも比較的良好な状態で保存されており、坑口や内部の構造、路面の白線などが当時のまま残っています。
トンネルの内部は錆や壁面の剥がれが見られるものの、照明設備やケーブルの垂れ下がりはなく、整然とした印象を受けます。
トンネルの長さはおよそ100メートルほどで、内部は緩やかな右カーブを描いています。
また、トンネルの周辺には「ロックシェッド」と呼ばれる落石防止の構造物も残されており、当時の道路設計がいかに自然災害と向き合っていたかを物語っています。
ロックシェッド内のガードレールは長年の塩害により朽ち果て、支柱ごと倒壊している箇所もありますが、それもまた時の流れを感じさせる風景の一部となっています。
さらに興味深いのは、トンネル周辺に残る旧旧道の痕跡です。
初代トンネルが開通する以前の道筋や、古びた橋梁の跡などが発見されており、これらは当時の土木技術や交通の様子を知る貴重な手がかりとなっています。
中には、コンクリート製の橋脚や梁が確認できる場所もあり、探訪者の探究心をくすぐるスポットとなっています。
現在、旧座津武トンネル跡は観光地として整備されているわけではありませんが、自由に見学することが可能です。
ただし、落石の危険があるため訪問の際は十分な注意が必要です。
周囲には座津武浜の美しい景観が広がっており、トンネル跡とともに自然の魅力も楽しむことができます。
このように、旧座津武トンネル跡は単なる廃道ではなく、沖縄の交通史、地域の暮らし、そして自然との共生の歴史を今に伝える貴重な文化遺産です。
やんばるの深い森と青い海に囲まれたこの場所で、過去と現在が静かに交差する瞬間を肌で感じ実感してみてはいかがでしょうか?
トンネルの歴史と構造
初代座津武トンネル(昭和12年開通)
海岸線の険しい岩壁を貫き、全長約50mと比較的小規模ながら、当時としては画期的な土木工事でした。
難工事の結果、地元技術者やフォード社製の削岩機を活用し、硬質岩を切り開いた記録が残されています。
二代目改修(昭和47年)
交通量の増加や安全性に伴い、1972年(昭和47年)に幅員・強度を高めた改修が行われました。
三代目:宇嘉(うか)トンネル(2013年開通)
崩落や落石と高波の恐れがある旧道の欠点を克服し、より安全で短絡なルートを通すため、新トンネルが海側を避けて内陸に開通しました。
旧トンネルは現在、通行止めとなっており、坑口や付近の遺構だけが朽ちつつも残っています。
地形・自然とトンネルの共生
トンネル南側は砂岩と泥岩の互層で構成される岩壁で、風化しやすく、ブロック崩壊の危険が常につきまとう地質です。
特に冬の時期には高波による浸蝕が激しく、ガードレールは塩害により朽ち、かつてはトンネル坑口付近に公衆電話が設置されたという記録もあります。
また、海に開いたトンネル出口からは釣り場へのアクセスがあったものの現在は立入禁止。
魅力と探検心をくすぐる廃道
現在は観光整備されておらず、坑内はコンクリートの補強や照明もなく、自然に還りつつあります。
ブログでは「坑内は錆や壁面の剥がれが目立つものの、照明・ケーブルの垂れ下がりもなくキレイ」と記され、約100m歩くと対岸の出口に達する様子が詳細にレポートされています。
このようなディテールに惹かれ、廃道・廃トンネル愛好家や歴史愛好者が定期的に訪れる“冒険スポット”となっています。旧トンネルの脇には、崩落したガードレールや古い橋脚など、往時の構造物が今なお姿をとどめています。
注意事項
旧座津武トンネル跡は、歴史と自然が溶け合う小さな“冒険の穴場”。
1930年代の道路技術が残る遺構としてトンネルや歴史マニアの関心を集めています。
廃道ならではの荒廃と美しさ、そして地形との共生を静かに伝える場所として、ぜひ一度その空気を肌で感じてもらいたい遺跡です。
ただし、安全・マナーを最優先に、自己責任での訪問をお勧めします。
名所 | 座津武トンネル跡(ざつんとんねる) 宇嘉トンネル(うかとんねる) |
---|---|
住所 | 〒905-1423 沖縄県国頭郡国頭村宇嘉 |
営業時間 | 見学自由 |
駐車場 | 入口近くに広場あり ※自己責任 |
備考 | 落石に注意!自己責任! |
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